黒くつぶらな瞳と、素朴で落ち着いた色合いが魅力のニホンイシガメ。
日本の自然を代表するカメとして知られていますが、近年ではその数が急激に減少しています。
その背景には、人間による環境の変化や、外来生物との競合など、さまざまな要因が関わっています。
特に、日本国内に広く分布する淡水カメとしては、ニホンイシガメが唯一の固有種であり、自然界における存在価値は非常に高いといえるでしょう。
この記事では、そんなニホンイシガメを野外で見つけたらどうするべきか、また、生息状況や飼育の可否に関するポイントについて解説していきます。
ニホンイシガメ を見つけたらどうするべき?

野生個体の持ち帰りや飼育は非推奨
ニホンイシガメを見つけたからといって、「こうしなければならない」という明確な決まりはありません。
通報する義務もなく、法律で捕獲や飼育が禁止されているわけではありません。
ただし、野生個体の持ち帰りや飼育は、生態系や個体数への影響を考えると推奨できません。
また、地域によっては条例により採集や移動が制限されている場合もあるため、見つけた場所の市町村や環境課に確認するのがおすすめです。
通報義務はないが情報提供が喜ばれることもある
Q. 見つけたら通報しないといけないの?
→通報の義務はありません。
ただし地域の保護団体が調査協力を募っていることもあり、任意で情報提供するのは歓迎される場合もあります。
地域によっては、ニホンイシガメの保護活動を行う団体が存在し、目撃情報の提供が役立つこともあります。
そのような団体があれば、サイトやSNSを通じてコンタクトを取ってみるのも一つの方法です。
また、見つけた個体を他の地域へ移動させたり、販売・譲渡することは避けてください。
これらの行為は、地域固有の遺伝子を混乱させたり、野生個体のストレスや病気の拡散につながる恐れがあります。
自然環境の中で見つけたカメは、その場所の生態系の一部です。「そっと観察して、そのまま見送る」ことが、もっとも優しい選択です。
飼育したい方は繁殖個体の購入を推奨
飼育を希望する場合は、野生個体ではなく、ブリードされた個体(繁殖個体)をショップやブリーダーから入手しましょう。
ニホンイシガメは比較的丈夫なカメですが、適切な飼育環境(ケージ、水場、陸地、紫外線、温度管理)や餌の知識が必要です。

ニホンイシガメの生息地

ニホンイシガメは北海道を除く本州、四国、九州に広く分布しています。
分布の北端がどこなのかは分かっていません。
池、河川の上流域や中流域、湖、湿地、水田などに生息しています。
晴れた日は水場近くの石や流木の上で日向ぼっこをしているのもよく見かけられます。
平地よりも山麓部に多く生息し、山地の水田地帯では、道路上を歩いている個体がいることも。
ニホンイシガメは絶滅危惧種?

絶滅危惧種については、絶滅のおそれがある野生生物をリスト化したものとして「レッドリスト」というものがあります。
スイスに本部を置くIUCN(国際自然保護連合)によってまとめられており、定期的に更新されています。
ニホンイシガメ は、IUCN(2000)及び環境省(2012)によるレッドリストでは、準絶滅危惧種(NT)に指定されています。
レッドリストにはいくつかカテゴリーがあり、
- 絶滅(EX)
- 野生絶滅(EW)
- 深刻な危機(CR)
- 危機(EN)
- 危急(VU)
- 準絶滅危惧(NT)
- 低懸念(LC)
- データ不足(DD)
- 未評価(NE)
このように9つに分けられています。
ニホンイシガメはこの内の準絶滅危惧に指定されているのです。
ニホンイシガメが準絶滅危惧種に指定されるまで個体数を減らしてしまった原因として、人間が大きくかかわっています。
農耕地の区画整理、水田耕作の放棄、河川や池沼のコンクリートやブロックによる護岸工事、ため池の埋め立てなどの開発行為により、ニホンイシガメの生息場所が急激に減少しています。
人間による乱獲や野生動物による捕食も、個体数減少の原因となっています。
また、人間の持ち込んだ外来カメとの生存競争が激しく、外来カメと比べて繊細なニホンイシガメは、競争に負けてしまいます。
外来カメの問題は餌や生息地をめぐる競争だけでなく、交雑による遺伝子汚染等もニホンイシガメの個体数減少の大きな原因です。
レッドリストとは別に、レッドリストに掲載された種の生息情報や存続を脅かしている原因等を解説した書籍としてレッドデータブックというものがあります。
気になるからはぜひ調べてみてください。

それって本当にニホンイシガメ?見分け方のポイント

ここまでニホンイシガメを見つけたらどうするべきかについて解説しました。
しかし、そもそも見かけたカメが本当にニホンイシガメかどうかは、案外見分けるのが難しくまたカメの種類によってどうするかの回答が変わる場合があります。
ですが、日本には他にもよく見かけるカメが数種類いて、ぱっと見では見分けがつきにくいこともあります。
ここでは、ニホンイシガメと間違えやすい代表的なカメたちと、その違いをわかりやすく紹介します。
ミシシッピアカミミガメ(通称:ミドリガメ)との違い

- 🟥 頬に赤いラインが入っているのが最大の特徴(アカミミ=赤耳)
- 甲羅は若いうちは緑色がかっており、成長すると黒っぽくなる
- 外来種で、ペットの遺棄によって全国に広がった
クサガメとの違い

- 🟨 頭や首に黄色いスジ模様がはっきり出る
- 甲羅が黒っぽく、やや平たい
- 在来種とされていたが、近年は中国由来の可能性も指摘されている
スッポンとの違い

- 🟤 甲羅が硬くなく、柔らかくて平たい
- 首が長くて攻撃的。かまれるとかなり痛い
- 見た目が明らかに違うので、誤認は少ない
ニホンイシガメの特徴まとめ

- 甲羅は黄土色〜黒褐色の落ち着いた色で、ややとがった形
- 顔に目立ったスジ模様がなく、シンプルな表情
- 黒く大きな瞳で、どこか和風で素朴な雰囲気
野外で出会ったカメが「目立つ模様がない」「色合いが地味でやさしい感じ」なら、それはニホンイシガメかもしれません。
ただし正確な判別は難しいため、写真に収めておいて、あとで図鑑やネットで確認するのもおすすめです。
典型例以外は見分けが困難
見分けのポイントを紹介しましたが、実際には赤いラインが薄くなったアカミミガメや、模様が目立たないクサガメも多く存在し、典型例以外は完全に見分けるのは非常に難しい場合もあります。
また、外来カメ同士の交雑個体なども自然界に増えており、外見だけでの判別は限界があることも知っておいてください。
そのため、野外でカメを見つけた場合は、無理に種を断定せず、写真を撮ってあとから調べたり、詳しい人に聞くという選択も有効です。
野生のカメを持ち帰ってもいいの?種類ごとの扱いの違いに注意!
日本の自然界で見かける野生のカメには、在来種と外来種が混在しています。
そのため、「持ち帰ってもいいのか?」「飼育しても問題ないのか?」といった判断が難しくなりがちです。
ここでは、特によく見かける3種のカメについて、法的・倫理的な観点から見た扱いの違いをまとめました。
種類 | 飼育 | 持ち帰り | 放流 | 備考 |
---|---|---|---|---|
ニホンイシガメ (今回の記事のテーマ) | OK(※繁殖個体推奨) | 非推奨(違法ではないが非推奨) | NG | 準絶滅危惧種。保護のため捕獲は避けるべき |
クサガメ | OK | グレー(違法ではないが非推奨) | NG | 増加傾向。ニホンイシガメとの交雑懸念も |
アカミミガメ | OK | OK(外来種ゆえ) | NG(違法の可能性あり) | 条件付特定外来生物。今後規制強化の可能性あり |
✅ ニホンイシガメ
法律上は捕獲や飼育が禁止されていませんが、絶滅危惧種に指定されており、生息数も減少しているため、野生個体の持ち帰りは避けるのが基本です。
飼育したい場合は、ブリード個体(繁殖された個体)を購入するようにしましょう。
✅ クサガメ
クサガメを見つけたらどうするのが正解でしょうか?
かつては在来種とされていましたが、近年では中国大陸起源の可能性もあり、分類が揺れている種です。
法的には保護されていないため持ち帰りは違法ではありませんが、ニホンイシガメとの交雑や生態系への影響を考えると、野生個体の採取は避けた方が無難です。

✅ ミシシッピアカミミガメ(ミドリガメ)
ミシシッピアカミミガメを見つけたらどうするのが正解でしょうか?
もともとペットとして輸入・販売されていた外来種で、現在は野外に大量に定着しています。
ミシシッピアカミミガメは外来種であるがゆえに飼育や持ち帰り自体は可能です。
自然に放す(遺棄)ことは「外来生物法」によって禁止される可能性があり、非常に問題視されています。
よって飼育するなら最期まで見届ける義務があり覚悟を要求されます。

ニホンイシガメを見つけたらどうすべき?【まとめ】
今回は、ニホンイシガメの生息地や絶滅危惧の状況、そして見つけたときの対応についてお話しました。
ニホンイシガメは、日本の自然に根づいた貴重な固有種であり、その個体数の減少は深刻な問題です。
しかし、その未来を守ることができるのもまた、私たち人間の行動にかかっています。
もしも自然の中で出会ったときは、持ち帰らずにそっと見守ることが何よりの保護につながります。
そして、飼育を希望する場合は、野生個体ではなく、繁殖された個体を選ぶことで負荷をかけずに楽しむことができます。
自然と共生するために、できることから少しずつ意識していきましょう。